レバレッジメモ:イノベーションのジレンマ

イノベーションのジレンマ—技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)

読む前の先入観

要するに「顧客に何が欲しいか聞いていたら(自動車ではなく)早い馬が欲しいと言っただろう」ってことでしょ?

読んだ後のレバレッジメモ&感想

先入観とぜんぜんちがった。

新しい商品の性能が既存の商品の性能を追い越していないにもかかわらず市場が奪われてしまうケースがある。なぜその現象が起きるのかはP10の図を参照。図に違和感がある、というコメントがあったが、この図は本書からスキャンして引用したものなので、この図が自分の理解に反するというなら理解の方が間違っている。

既存の商品に比べて価格の安さというメリットと、性能の低さというデメリットを兼ね備えた商品が、技術の進歩によって「性能は低いけど自分のニーズにはこれで十分だ」という状態になり、既存商品の市場を奪う。

メリットを「価格の安さ」に限定しなければこういう例もありかな。スクリプト言語は既存のCとかに比べて「手軽さ」というメリットと「速度の遅さ」というデメリットを兼ね備えていて、登場当時は速度の遅さが問題で大部分のニーズに対して適切ではなかった。しかし技術の進歩によってコンピュータが速くなったので「Cとかに比べてかなり遅い」というデメリットは変わっていないにもかかわらず「自分のニーズにはこれで十分だよね」ということでシェアが大きく増えた。

なぜ企業が顧客のニーズを超えて継続的改良にコストを割いてしまうのかというと、顧客のニーズがあることがわかっているためそれにコストを割くという意思決定が容易だから。しかしそれを繰り返していると、既存顧客の要望を受け入れる形でどんどん高性能化して、過剰品質になってしまい、安くて品質の低いものに駆逐されるわけだ。

MOTの某氏からツッコミを受けたので追記

「グラフの2本の矢印が同一の技術に基づいていること」が破壊的イノベーションと呼ぶためには重要。なぜなら、そうではない「既存の商品と異なる技術に基づいたデメリットのある商品が出て来て、技術の進歩によって市場のニーズを満たせる程度にデメリットを克服して、市場のシェアを奪いました」という現象は単なるイノベーションだから。3.5インチのHDDは以前のもっと大きなHDDに対して容量が劣っていて当初は使い物にならなかったが、密度の高い読み書き技術の進歩によって平行に性能が上がった結果、3.5インチで十分になって大きなHDDのシェアを奪った。SSDも当初は容量が少なくて使い物にならず、技術の進歩によって使えるようになったのは同じだが、これは同じ技術に基づかないので破壊的イノベーションではない。

クリステンセンの論文の新規性は「従来版と共通の技術に基づく単なる劣化版がベース技術の進歩によって性能的に優れた従来版を駆逐する。画期的な技術革新がなくてもイノベーションは起きる」というところにある。

画期的な技術革新がなくてもイノベーションが起きるだと!ようやくこの本の何が面白い点なのか理解した。

追記

後半クリステンセンが自分で言っている「破壊的イノベーション」の定義に反するものを実例だと主張しているように見えるのだが…。あと、イノベーションという言葉を最初に定義したのはシュンペーターで、その時からずっとイノベーションは技術革新に限らないもっと広い概念だったそうだ。クリステンセンの他の本を読む前に今度はシュンペーターの本を読んでみようと思っている。