シャドーワークと勝手の意味

続・エンジニアの学び方シリーズの第4話:続けられた理由は「仕事が楽しくなかったから」がリリースされました。

今回の話はザックリ言うと「小崎さんがすごい人になる過程で、仕事をサボったことが重要な役割を果たしていた」ということなので「仕事をサボるのは倫理的によくない」と言い出す人が出るんじゃないかとヒヤヒヤしていましたが、好意的な反応が多くてホッとしています。

Twitterなどで観測された質問に答えていきます。

シャドーワーク

まず「シャドーワーク」という言葉は「専業主婦の家事労働」とかを指すんじゃないの?というご質問から。

イヴァン・イリイチ (Wikipedia)が「シャドーワーク」という言葉を作った際には、確かに専業主婦の家事労働にフォーカスがあたっていました。「生活の基盤を維持する上で必要なのに、それに従事している人が報酬を受け取っていないような仕事」という意味です。参考文献:シャドウ・ワーク―生活のあり方を問う

一條和生らは著書の中でイリイチの概念に言及しつつ、シャドーワークは家事に限った話ではない、という主張を展開しています。「ビジネスの中にも業績や目標達成など『会社を維持する』ことに重要な貢献をしているのに、それに従事することが『正規の仕事』として認知されていないタスクが存在する」という主張です。だから彼らはこの種のタスクもシャドーワークと呼んでいるわけです。参考文献:シャドーワーク―知識創造を促す組織戦略

この種のタスクは、ブートレッギングだとかスカンクワークスだとか、いろいろな用語で呼ばれています。つまり、まだこの概念を指す用語が固まってない状況にあるわけです。今後の研究の発展によって、どういう用語に収束するかが決まってくるのでしょう。

「勝手」のニュアンス

次は「勝手にやる」の反対は「言われたことしかしない」ではなく、「提案してやる」ではないか?というご質問です。

「勝手にやる」にNOTを掛ければ「勝手にやらない」だろう、だから「提案してやる」じゃないか、という趣旨です。「指示されていないことをやる」にNOTを掛ければ「指示されてないことはやらない」になるので「勝手」という単語をどういうニュアンスで捉えているかによって答えが変わりますね。よりわかりやすくするためには「指示されているか」という視点を補足したほうがよさそうです。

また「勝手にやらない」と「提案してやる」の間には大きなギャップがあることも注目が必要でしょう。「提案して(承認されて)やる」過程では複数人の行動が必要です。一方、勝手にやることは一人でも始めることが可能です。「スタート時の心のスイッチのコストを下げること」が大事という話は、#2にも出てきましたね。参考文献:カーネルハッカー・小崎資広の「コードを読む技術」 | サイボウズ式

サボりについて

「仕事をサボった」という話のインパクトが大きすぎてひとり歩きしている感がありますが、仕事をサボって遊ぶことまで正当化することはできません。小崎さんは確かに「指示された仕事」はやらなかったのですが、「別の仕事」をやって「指示された仕事」よりも高い価値を会社にもたらしています。単にサボって遊ぶこととは明確に違います。

gihyo版エンジニアの学び方#1では、知識には3つの軸があり、その一つが「応用対象」軸だという話をしました。小崎さんの場合は、応用対象をしっかり理解し、「指示された仕事」の目的を達成するためにはもっと良い方法があると考え、実行したわけです。