首都大学東京の「情報通信特別講義」で話してきました

首都大学東京システムデザイン学部1-2年生配当科目「情報通信特別講義」で1時間半の講義をしてきました。

講義資料はアンケート結果をもらってから加筆して公開する予定です。

今回、複数人の講師による講義でした。

小町先生が他の講師の講義も含めて #tmutalks というタグでツイートしています。首都大学東京システムデザイン学部1-2年生配当科目「情報通信特別講義」 - Togetterまとめ

自分のTweetまとめ

講義の後の質疑・雑談や他の講師の話を聞いて、僕が違和感を持ったところ(僕の講義で使った「言語」で表現するなら「現実と自分の理解のギャップ」)について後からいくつかツイートしたので転載して加筆修正しておきます。

■「コネが大事」という言葉の真意について

「一言で要約すると、コネが大事」というような話が何度か出たのですけど、僕個人は「コネ」という言葉はあまり使いません。そのギャップが何から生まれたのか考えてみました:

僕が学生の頃「コネが大事」と言うオッサンは嫌いだった。自分がオッサンになって、彼らが何を伝えたかったかがわかるようになった。当時の自分の「コネ」という言葉の解釈と、彼らの「コネ」という言葉の解釈にズレがあったのだ、と今では考えている。

当時の僕は、「コネ」を「親がすごい」みたいな「運で決まるもの」と捉えていた。しかし、学生にアドバイスをするオッサンがそんな「本人の努力でどうにもならないこと」を重要だとか言うはずがない。彼らの言っているのは「努力で作ることができるコネ」のことだ。これはどうやって作られるか?

その作り方がこれ:「人と仲良く。過去に仲良くすると助けてくれるが、過去にいじわるすると跳ね返ってくる。」 自分が困ったときに助けてもらえる「コネ」は、ヘラヘラ笑いながら名刺交換していても作れない。自分から率先して人を助けることによって作られる。 https://t.co/LToipAZb7e

(参考: ギブ&テイクはギブから始まる 焼畑農業をやめるために---新卒準備カレンダー 2011春)

というわけでオッサンの言う「コネが大事」ってのは、当時の自分にわかりやすいように噛み砕くと「周りの人を助けることで、自分が困ったときに助けてくれる人を増やそう、それが大事」ということだと思うんだ。誰もそこまで噛み砕いて教えてはくれなかったが。


■「流行りものに飛びつこう」について

たぶん id:overlast さんの講演の中で語られたのであろう「流行りものに飛びつこう」という言葉について、これも「コネ」と同様にオッサンの中の解釈と学生の中の解釈がズレそうだなと思ったのでつらつらと書いてみました:

「流行りものに飛びつこう」も、割とハイコンテキストな言い方なのではないかと懸念している。「数学が大事」「より抽象度の高い知識ほど応用範囲が広い」というテーゼが通奏低音として流れていることを前提として、アンチテーゼとしてあえての「流行りものに飛びつこう」だよね?

抽象度の高い知識の方が応用範囲が広いから、年を取るに従ってそういう知識の重要度が上がる。オッサンたちは普段の生活の中でその必要性を痛感していて、だから学生に「大学の数学とか超重要」などといったアドバイスをする。一方で抽象的知識は経験と結びつかないと応用しにくい、それを学ぶモチベーションも維持しにくい。

それを踏まえて「流行りものに飛びつこう」は若者の戦略としては有用だ。経験を積み上げているオッサンと若者の戦いは基本的に若者が不利だが、流行りものはスタートラインの差が小さいから、体力や自由にできる時間の多い若者に有利になる。有利な土俵で勝つことで、注目や実績や人脈を(オッサンに取られる前に)奪い取る戦略は若者向きだ。

一方で、その「流行りもの戦略」での成功体験に囚われるとジリ貧になる。僕が最初に出した本はJythonの本で、本を出す実績を積んだ点は成功だったが、個人的には内容の陳腐化の速度が予想以上で、題材選択の失敗と解釈している。それが二冊目の題材選択に強く影響している。

(5年経っても陳腐化しないことを目指して書かれた「コーディングを支える技術〜成り立ちから学ぶプログラミング作法」のこと)

まあ「若者がオッサンと戦う上での戦略」みたいなことを言ったけど、33歳のオッサン当時に、流行りもののword2vecの本を出す話が来た時には「飛びついて実績を作る」戦略を選んだわけだなあ、今考えると。機械学習の広いテーマの解説だと機械学習自体が本業のPFNとかの人に蓄積の量でかなわないから、流行りもの戦略を採用した、と事後的には解釈できる。

話を少し戻すと「流行りものに飛びつこう」が若者の戦略として有用なのは対オッサン戦略としてだけではない。積み上げの少ない分野だから、他人のやってないことを実現するまでの時間が短い。注目の分野だからフィードバックを貰える確率も高い。つまり学習サイクルが速く回せる。

「学習のサイクルを速く回す」というコンセプトは、実は教育関係の本ではなく、意外かもしれないがベンチャーの経営に関する本で学んだ。「リーン・スタートアップ」だ。遡るとこれは経営戦略における派閥の一つで、その話はサイボウズ式の原稿に書いたのでそのうち公開される予定。