「零戦 その誕生と栄光の記録」を読んだ。

零戦 その誕生と栄光の記録」を読んだ。

海軍から「速くて長距離飛べて小回りのきく戦闘機を作れ」というムチャぶりをされて、それを何とかしようと創意工夫を重ねる話。だいぶ出来上がってきてから「その方針は正しくないのではないか」とか言い出す奴が出てきた話。「物さえできれば、設計の構想や実施のよしあしは証明される。われわれ技術に生きる者は、根拠のない憶測や軽い気持ちの批判に一喜一憂すべきではない。長期的な進歩の波こそ見誤ってはならぬ」という言葉はとても格好が良い。重量を減らすための斬新なアイデアを導入したり、重量を少しでも減らそうとカリカリのチューニングを行うあたり、エンジニアとしてはとても共感できる。

そういうエンジニアリングのレイヤーの話も面白かったが、一番印象に残ったのはもっと上のレイヤーの話だった。序盤ではパイロットが事故で殉職して、「◯◯さんが死んだ」と真っ青になっているのに、終盤では「ミッドウェーの大敗北で何百人の訓練されたパイロットが死んだ」と一山いくらの野菜のような扱いになっていることが。

序盤は零戦自体は圧倒的な性能を持っていたが、ボーキサイトと石油の調達経路を塞がれてしまうとか、アメリカがほぼ無傷の零戦を手に入れてしまったりとか、その結果、敵側に「零戦とは1対1で戦うな、2体で後ろをカバーしながら戦え」や「高高度から急降下してヒット・アンド・アウェイ」という零戦対抗ノウハウができてしまったりとか。そして終盤にかけて、アメリカが「打倒零戦」をうたってF6Fを量産し戦線へ投入し始めたり、日本側の後継機はリソースが足りなくてまだ完成せず、零戦に燃料タンクを追加したり、防弾設備を追加したり、自動消火装置をつけたりと今まで「当たらなければ大丈夫、防御を削って身軽に」路線だった戦闘機に防御を積み込み始めるとか、本土の爆撃が盛んになるとか、一機でも多く飛行機を作ろうということで国民に金属の供出をさせたりとか、そしてそうやって作った貴重な戦闘機で神風特攻を始めるとか…

そしてこの流れの中で堀越さんは、その流れを変える行動は何もできない。前半の自分の才覚で世界最高の戦闘機を作り上げるところと、後半の何もできずにいるところのギャップが身につまされる本だ。