アイデアの出し方講座

昨年、サイボウズの中でアイデアソンをやろうという話になった時に書いた、アイデアの出し方についての記事を転載します。特に秘匿すべき情報はないですし。サイボウズ社内にかぎらず有用だと思うので。

イデアは新規なものでなければならない?

「アイデアが新規なものでなくてもよいのか」という質問がありましたが、僕は「よい」と思います。理由は2つあります。

1つ目は「新規性より有用性」という点。我々は研究所じゃなくて営利企業なので、新規のアイデアであることよりも、サイボウズと顧客にとって有用であることが重要です。

2つ目は「ハードル上げすぎ」という点。アイデアは最初から有用な完成形で生まれてくるのではなく、アイデアのかけらを集めてワイワイやっていくうちに組み合わさったり磨かれたりして徐々に育つものです。

イデアの出し方講座#1

「アイデアソンのゴールはアイデアを発表することです」と言われても、「アイデア」ってのがなんだかよくわからない言葉だから、腰が引けてしまうのかもしれない。

イデアは「他人に伝えるとなにか有益なことが起こるかもしれない考え」だ。

イデアは「解決策」である必要はない。

例えばあなたが「こういうのが理想だと思うのだけど、現実はこうなっている」という話をして、それを聞いた誰かが「それってこうやれば解決できるんじゃない?」と解決策を思いついた場合を考えてみよう。後者だけがアイデアだと思ってしまう人もいるかもしれないけど、最初の問題提起がなかったら、解決策も生まれなかった。「解決策ではないアイデア」でも話すことには価値がある。

イデアは「確実」である必要はない。

「この考えで有益なことが起こるかどうか自信がない…」としり込みする人もいるかもしれない。でも確実ではないのが当たり前。もし確実なのだったら、アイデアソンを待たずに上司に報告すれば良い。それが「確実に有益なアイデア」ならすぐに本部長会とかでGOが出て実行に移される。アイデアソンは確実ではないアイデアを部署を超えて流通させる場なんだ。だからアイデアが確実でないことを理由にためらうことはない。

イデアは「完璧」である必要はない。

「アイデアはあるけど、でも○○という問題点があって…これが解決されたら話そう」と考える人もいるかもしれない。でも話そう。「問題点がない」アイデアも、人に話してみると意外な問題点が見つかったりする。「問題点がある」アイデアも、人に話してみると簡単な回避法が見つかったりする。つまりあなたが一人で「問題点がある/ない」と考えていることには意味が無い。

イデアは、心のハードルを高くすると出てこなくなる。まずはハードルをぐんと下げて、心の外に出すことが大事。一度外に出せば、磨いていくことができる。

イデアの出し方講座#2

十分心のハードルを下げることができると、「アイデア」がポンポン出るようになる。

ハードルを下げて出したアイデアだから、ハードルが高いままの人がこの「アイデア」を見ると

  • 「で、どうやって解決するの?」
  • 「それって本当に有益なの?」
  • 「それって○○って問題があるじゃん」

という反応をするだろう。

それはアタリマエのことであって、驚くことじゃないし、恐れることでもない。

イデアの出し方講座#3

書いてから考えよう。

暗算と筆算はどっちが楽?

記憶は脳の負担になる。
思いついたことを記憶にとどめながら考えるよりも、思いついたことをどんどん紙に書き出して、それを眺めながら考えるほうが楽だ。

イデアの出し方講座#4

サイボウズの社内研修でも使われている「問題は、理想と現実のギャップである」という枠組みを、今年の京大サマースクールで採用したら、アイデアの出てくる速度が1.5倍ぐらいに上がった。

具体的にはこういう使い方をした:

  • 演習「問題の改善に役に立つかもしれないことを何でも書き出してみよう」2分間
  • 理想と現実のギャップが問題って話を解説
  • 演習「理想に関係しそうなことを何でも書き出してみよう」2分間
  • 演習「現実に関係しそうなことを何でも書き出してみよう」2分間
  • 演習「ギャップを埋めることに関係しそうなことを何でも書き出してみよう」2分間

演習では事前に「質より量が評価される」と伝えて、時間を測ってタイムトライアルで数を競わせ、演習ごとに何枚書けたかを確認した。人によって得意な質問、苦手な質問があって興味深かった。

イデアの出し方講座#5

問題が解決しない大きな理由は問題を正しく理解できていないこと。

人間は問題をわかったつもりになりがち、問題を「自分に見えている通りの問題」と考えがち。そしてそれをきちんと確認しないまま解決策を考えるので、うまくいかない。

たとえば新しいマシンに何かをセットアップしようとして、情シスの作ったマニュアルがわかりにくくて、隣の席の人に手伝ってもらいながら丸一日かかってしまった、とする。「マニュアルがわかりにくいのが問題だ」と考えるのは自然だ。

この問題認識を「理想と現実」「事実と解釈」の枠組みで表現すると、「マニュアルがわかりにくい(解釈・現実)セットアップに丸一日かかった(事実・現実)マニュアルがもっとわかりやすいのがよい(解釈・理想)具体的には……」という感じになるだろう。

これでは問題は解決しない。問題認識に自分の視点からの情報しか入っていないから。

仮にこれをベースに「もっとマニュアルをわかりやすくしろ」と提案した「もっと、ってどれくらい?」「工数が足りないので…」ってなる。

「問題は理想と現実のギャップ」なのだけど、一人の人間が思いつく「理想」「現実」は偏っている。利害関係者それぞれの理想と現実を集めてギャップを見ないと、問題を正しく理解することはできない。

情シス側にもヒアリングすると「工数足りない。オフィス移転というビックイベントが控えてるし…」とか「『もっと詳しく』って言われてもどれくらい詳しくすればいいかわからない、周りの人に聞いて解決して終わりじゃなくて、どこがわかりにくかったかフィードバックしてよ」など意見が出てくる。そういう複数の視点からの情報を集めてから、解決すべき問題が何かを考える。

今回の例で言えば、例えば「コンピュータが得意ではない人がつまずきにくいマニュアルがあるのが理想だが、それを作るために今のマニュアル作成よりも多くの工数を割くことはできない現実」とか「マニュアル改善のためには、わかりにくかったところが情シスにフィードバックされるべき(理想)だが、周りの人に聞いて解決しているのでフィードバックされない現実」とかになるわけだ。

マニュアルわかりにくい問題に関してプレゼンをすることをイメージしてみよう。複数人の視点が入った改良版のほうが、聞いた人の心を動かしそうじゃない?

(「現実」と「理想」が単なる反転になっているケースは、問題の理解に必要な情報収集が足りてない兆候なんじゃないかと思ってる。)

あと「マニュアルがわかりやすいのが理想、現実そうなってない。わかりやすく改訂しよう(解決策)」みたいな「わかりやすい問題と明らかな解決策」がある場合も、だいたい問題認識が間違ってる。

一部の人しか気づけないような問題でもない限り、すでに問題は知られてて、明らかな解決策も検討されてて、なんかそれを実行できない理由があるから実行されてない。

だから「明らかな解決策」が実行されてない時は「○○すべき!」と主張するんじゃなくて「○○されてないのには何か理由があるんですか?」と聞くほうがいい。

質問の避け方

>・「で、どうやって解決するの?」
>・「それって本当に有益なの?」
>・「それって○○って問題があるじゃん」

よくある質問だから恐れることはない、って言っても「でもそう言われたらどうしたらいいの?」ってなるのかもしれない。というわけで一例。


>「で、どうやって解決するの?」
「わかりません、でもこの問題を解決することはとても重要だと思うんです!」


>「その解決策って○○って問題があるじゃん」
「そうですね、ご指摘ありがとうございます。なにか他の方法はないでしょうか?」


>「それって本当に有益なの?」
「わかりません、でも私は有益だと信じています!」


ちなみに僕はアイデアソンがサイボウズにとって有益だと信じています!

イデアの出し方講座#6

「書いてから考えよう」で、僕は38mm*50mmの付箋に書いている。これは世の中のデザインワークショップなどが使うものに比べるとかなり小さい。理由はとても明確。複数人で共有する場合は大きくないと見えないのだけど、僕は一人で自分の思考を整理するときに使っているので小さくても良くて、小さいと机の上にたくさん並べることができるから。

なぜ並べるかというと、ひと目で見渡せるようにするため。人間のワーキングメモリーは7つぐらいしか情報が入らないけど、机の上に並べて眺めれば短い時間で目を通すことができる。

最大だと150枚くらい並べることもあるけど、さすがに辛い。100枚くらいが慣れた僕には適度な感じ。不慣れな人はもっと少ないところから挑戦してもいいと思うけど、20枚ってのは少なすぎると思う。40枚が最低ラインかな。

「40枚も書く内容を思いつかない」という場合、それは脳の中に十分に情報がないってことだから、やるべきことは情報収集だ。問題に関係ありそうな人に話を聞きに行くとか、関係ありそうな本を斜め読みしてヒントがないか探すとか。

「アイデアは情報の新しい結合のしかた」という人もいる。自分の脳内の情報と、脳の外から集めてきた情報を机に並べて、そこから新しい結合を見つけ出すのがアイデアづくりの一つの技。

・・・・・

京大サマーデザインスクールで教えたKJ法の流れとしては、ここまでは準備段階で、この後グループ編成、表札作り、図解化、文章化、という流れになるのだけど、多分初めての人はそこまでやらなくても、だいぶアイデアの出し方に関しての考え方・やり方が変わるはず。

付箋が100枚ぐらいになって「収集がつかない…」という人が出たらその時に続きをやることにしよう。

イデアの出し方講座#7

他人に話を聞きに行く話題が出たので、少し詳しく書こう。僕は得意というわけではないけど、典型的なNGパターンはいくつか知っているので。

まず、インタビュー対象と議論を始めてしまうのはNG。目的を忘れないようにしよう。目的は「自分の脳内にない情報を得るため」だ。相手が自分の考えと対立するような内容を話し出したら「やったー、収穫のチャンス!」議論をして潰すなんてもったいない。

次に、相手が自分の聞きたいことと全然関係ないことを話しだした場合。遮ったり、興味なさそうな顔をしてしまいそうになるけど、グッとこらえて「今の自分は関係ない話と思ってるけど、この人は関係があるとか重要とか思って話してるんだよな。なぜそう思うのだろう?」と考えて聞き続ける。関係の発見に成功したら「自分は関係ないと思い込んでいた重要な情報」がどっさり手に入る。失敗することもあるけど、その時は付箋がお蔵入りになるだけ。

最後に、相手がすでに自分が知っていることを話している場合。これをどうすればいいのかは僕もよくわからない。的確な相槌を打って話をサクサク進めて次の話題に進めばいいのかな?