レバレッジメモ:専門家をカモにする人・される人
書籍のタイトルって、著者じゃなくて編集者が決めることも多いんだけど、これは流石にひどいんじゃないか。著者が冒頭で「タイトルはこうだけどなになに」といいわけしてしまうようなタイトルを付けてやるなよー(笑)
「金持ち父さん」以降数々の投資本・セミナー。3つに分けられる。経済評論タイプ。「それでどうするの」が得られない。成功談タイプ。バブルで成功した人の自慢で、内容がデフレの現状に即していないことが多い。最も罪深い3番目がやり方入門タイプ。銀行・不動産屋・証券会社にいけばわかるようなことをわざわざ語るもの。専門家をパートナーとしてコントロールする方法ではなく、客(カモ)としてコントロールされる方法をおしえている。
「経済的自由」は「不労所得」ではない。やりたい事をお金・生活のために諦めなくてよくなること。*1
経済的自由は多くの不幸をヘッジするが、間違った投資で経済的不自由や不幸を呼び寄せる人が多い。「リスクを負うのは当たり前」と言いながら負わなくてよいものまで負う。*2
哲学書として考え方を学ぶのなら良書、ハウツー本だと思うなら悪書。
プロフェッショナルはスーパーマンではない。それを仕事にしていて慣れているだけ。過信しない。
「考えること」「判断すること」を任せてはいけない。任せていいのは「情報提供」と「労働」だけ。
中古車業者にはベテランと新人で評価が安定するように査定基準リストがある。自分の目で査定しているベテランか、マニュアルを鵜呑みにしている新人か。
筆者のスタートは、「純正ではないチューン」「(きちんとチェックすれば簡単に取れるような)傷が沢山ついている」ハチロクトレノを、その価値が査定できない高級車専門ディーラーから15万で買ったこと。傷を取って1年半後4倍の値段で売却。
「普通の車」「人気の車」「売れ筋の車」 普通の車は価値が0に落ちる。売れている車より人気の車のほうが底値が高く、値下がりがゆっくり。人気の車(ブランドロイヤリティが高い商品)は他の商品と価格で比較されることが少ない。
不動産屋を複数回っても似たようなことしか言われないのは、同じデータが回るので、ペーペーがマニュアル対応しているから。予算を最初に聞く。「その予算ならこういう物件だ」と断言する。割安な物件を探したりなんかはしない。それはより多い労働をしてより少ない手数料を得るだけで、不動産屋にそういう行動をとるメリットがない。
毎朝「マイソク」というチラシが各不動産屋に配られる。なのでどこの店でも同じ情報。
なぜ眺望が不動産価格に反映されないのか。マニュアル対応を繰り返している不動産屋は眺望を判断するスキルを習得しない。眺望の良さをアピールして高く売ろうともしていない。バブル期のただ流すだけで利益を上げられた時代から変わっていない。
多くの競売本の解説はほぼ共通。「競売の最低売却価格は市価の6〜7割なので、それに2〜3割上乗せして入札」か「チラシなどで相場を判断して1〜2割引いて入札」。こんなどんぶり勘定で買うだなんて驚き。この方法で本業の不動産屋と競合して勝ち目があるのか疑問。
過去の入札価格データを集める。入札されなかった物件も何割か。入札されない=最低落札価格の価値もない。それを2,3割上乗せして買うだなんて!
「ヤクザまがいの占有屋がいるリスク」などと言うが、安い物件に占有屋がいることは稀。高い物件を占有した方が利益が大きいから当たり前。
レベルの低い鑑定士がとんでもない評価額をつけることは少なくない。
不動産は公的な流通機構(レインズ)への取引事例の登録が義務付けられている。マンションごとにこれまでの取引事例を参照して、相場と流通頻度を判断出来る。
競売本には「初心者は空室を狙え」と書いてあるかも知れないが、占有屋にとっては居住者を追い出さずに仕事できる空室の方が好都合。
老朽化の激しい安い物件、ただし抜群の眺望、を300万で購入。リフォーム好きコミュニティで貸借人を募る。1年後不動産屋に売却を打診すると600万で売ろうという話に。大手財閥系不動産会社に任せて、なかなか売れないと思っていたら他の不動産屋から550万で打診。広告コピーに全く工夫がなかった。
「広告を打った」と言っても、B5折り込みチラシの印刷代が4万、ポスト投函費用が2万を6つの物件でシェアしているなら高々1万円かけたというだけ。
980万に値上げして、5000円程度投資してまともなチラシを配布したら1週間で2件の内見。
末端の営業マンを説得しても無駄。彼のミッションは交渉をまとめること。「550万でしか売れない、と言った物件に売主が980万で見込み客をつけてきて、自分の不手際を怒っている」というエクスキューズを用意した。
専門家が専門家たる所以は、マニュアルによって専門家らしい振る舞いができるだけであって、新しい状況に即して考えることが得意とは限らない。
新築は2割が広告及びモデルルームのプロモーション費用。
不動産屋は何も考えずに慣例通り昼間にオープンハウスを行おうとしたが、眺望を売りにする北向き物件でそれは愚の骨頂。
マニュアルから外れた対応が可能な「真の専門家」
専門家がマニュアル対応で見つけられない物件は飢餓感が高い。また専門家はそういった商品の価値を正しく
新築マンションには経験マーケティングの手法が良く用いられてきたのに、中古物件ではあんまり。高額でしかも他より割高な商品を売る上ではとても重要。
オーナーチェンジ=賃借人をつけたままの売買
多くの人が必要以上に専門家を過大評価し、頼り、萎縮し、自分で考えない。その結果カモにされる。専門家を自分が司令塔となって動かさねばならない。
専門家に対して偉そうにするという間違い。客という意識で専門家に接するのではなく、パートナーとして丁寧に扱わねばならない。殆どの客と同様に接してくれる方がカモにしやすいから。
ただリクエスをを出すのではなく、欲しいアウトプットを提示して、アウトプットを出しやすい位置に迎えに行くことが必要。
人は最終的には感情で動く。なぜ120円の缶コーヒーではなくスタバのテイクアウトをするのか。なぜ数千円の買い物を我慢しつつ数万倍の価格のマンションを買ってしまうのか。
「顧客の”なぜ私に?”という問に答えること」レスター・ワンダーマン
専門家に任せる。労力と情報は専門家の仕事。
所有権移転と抵当権抹消をすると交通費、立会費を含めて8万くらいかかるが、書類は5分で作れるので自分でやってる。でも都心以外は司法書士に任せている。
データも専門家と同じ。過信してはいけない。誤った切り口で使えば逆効果。たとえば甲州街道北側の物件でもほとんどが南向き。高架が見えるだけなのに。北向きなら都庁周辺が一望できるのに。一人暮らしなら昼間は会社にいるから日当たりとか重要ではないだろう。希望条件に「南向き」をあげる人が多いから。「南向きであることと、北向きだけど新宿の夜景が見えることとどちらがいい?」というアンケートが行われていないから。
データを見て疑問をもつことは重要。レインズの取引事例で売り出し価格そのままの成約事例が少なくないが、指値交渉を行わないで成約することはレアなはず。おかしい。これは住宅ローンを多くつけるために本当よりも高く登録している(?)競売でも異様に高い外れ値がある。素人の高値落札や違法な自己競売。
値上がり基調の地区を探すことが重要*3
意思決定と考えることは他人に任せてはいけない。自分で考えて失敗したなら、そのノウハウは次に生かせる。
筆者がけなしている「マニュアル専門家」自体は、大企業の戦略としては間違いではない。ビジネスをスケールするためには、マニュアルを使って低い教育コストでたくさんの交換可能な人員を用意する必要があるし、人気商品ではなく売れ筋商品に特化するのも、その方がマーケットが広いからだ。
筆者の戦略は「眺望のいい部屋が欲しい人」というニッチ市場に特化した戦略だ。資本力の小さい個人が大企業よりよいパフォーマンスを上げるには、頭を使ってニッチ市場を見つけ、そこに大企業が投下するより多いリソース(この例ではより多い宣伝費や筆者の広告作成のノウハウ)を投下するしかない。だから筆者の戦略も正しい。
しかし、こういう零細企業家が知恵と努力で「旨みのあるマーケット」を発見した場合、それが大企業にとってもペイするものであったらいずれ大企業が参入してきて資本力で負ける。
こういう本を書くということは、もはや「展望の良い物件」というマーケットの旨みはさほどではないってことなんだろうな。筆者本人が冒頭で「金持ち父さん」について語っているのと同様に、この本をニッチ戦略の実践例として一段階抽象化して読むならいい本なんだけど、これを読んで「そうか!自分も眺望のいい物件を探そう!」なんて言う人にとっては悪い本なんだな。