「techな人にお勧めする意外な一冊」あとがき

サイボウズのアドベントカレンダーで記事を書きました。「techな人にお勧めする意外な一冊」ということで「ドラマとはなにか -ストーリー工学入門-」を紹介しました。まあ本編はあちらで見ていただくとして、こちらではあとがきのようなものを書いてみようと思います。


あちらの本編では「ストーリー工学を学んであなたの役に立つかどうかはわからん」と書きましたが、少なくとも僕には役に立ちましたよ。あの記事を25分で書ける程度には。本を1冊読んだ程度の浅い知識ですけど、あのエントリーの中に色々応用されています。ちょっと説明してみましょう。



まず序盤でやるべきことは「ストーリー全体を貫く『貫通行動』の説明」と「十分な初速で打ち上げる」ことです。なので、最初の数行で「techな人に意外な一冊をお勧めする」がストーリーの主軸であることを説明しています。


次の数行でおすすめする本を出して、「意外でしょ?」と言っています。主人公は意外だと主張する、しかし読者は意外だとは思わない、つまり「葛藤の発生と解決」なわけです。「主人公が動き出さない時には環境の方を動かす」ってのも本に書いてました。この場合主人公の「意外でしょ?」に対して環境(架空の読者)が「え?そう?」って言ったと想定するわけです。そうすると主人公はそれに対抗するために動き出すわけです。

今回はブログ記事ってことで主人公=僕のひとり語りですけど、例えば会話体なら

エヌ博士「今回紹介するのがこの『ストーリー工学』じゃ。どうじゃ意外じゃろ」
エー助手「えっ、どこがですか?」
エヌ博士「意外なんじゃ!そもそもじゃな、(以下略)」

みたいな感じになるわけですね。



このあと、貫通行動に戻って「オススメする」を実行します。ここもあえての「文字通りオススメをする」を主人公が取って、架空の読者が「えっ、オススメする理由を言えよ」と対立する。そして「葛藤の発生と解決」をもういっちょやる。

こっからもうクライマックスに入って、主人公は大立ち回りする感じ。まあ筆が勝手に走るといいますか、主人公が勝手に動くといいますか、って状態です。ブログ記事ってことで主人公=僕なのでそういう状態には入りやすいですね。この記事も特に設計とかせずに最初から最後まで主人公が走り回っています。

ま、勝手に動くと言いましても事前にKJ法はしてますけど。



最終的に「すすめたくない」「役に立つかわからない」「過去の自分が意外に思うようなチャレンジは面白い」というシメになっています。貫通行動の「意外」と「すすめる」を一旦両方捨ててしまっています。その上で前に捨ててたはずの「意外」が戻ってくるんです。主体を「過去の自分」にすり替えることで。「すすめたくない」と言いつつ、結局最終的にはすすめてますよね。これは客体を「この本」ではなく「チャレンジ」にすり替えています。

というわけで全体としては「最初に宣言された『ゴール』を避けようと行動した結果、当初の予想とは違う形だが結局『ゴール』が達成されてしまう」っていうありがちなパターンになっているわけです。



さて、こんな感じで解説しましたけど、正直なところこの本はドラマ的な、長くてストーリーの山場がいくつもあって、という物を想定して書かれている本です。ショートショートやブログ記事にはあんまり向いていないように思います。まだ読み終わってないですけど「小さな物語のつくり方」なんかも面白いんじゃないかな。あなたの役に立つかどうかはわかりませんが。