書評:夢見るプログラム

だいぶ前に著者の加藤博士から頂いていたもののいろいろ忙しくて紹介が遅れました。

この本は1999年に「人工無脳は考える」を立ち上げて「人と会話をするソフトウェア」(人工無脳)について研究・考察を続けてきた加藤真一さんによる本です。特に2章では21ページにわたって、Elizaに始まる人工無脳50年の歴史を俯瞰していてとても良いです。人工知能による会話フレームワーク鳴り物入りで紹介されたりしたときに、中身を見てルールベースだったりすると、僕とかは「ゅぃぼっと」かよ!とツッコみたくなるわけです。だけどゅぃぼっとは1996年だからもう20年も前なんですねぇ。

ルールベースの人工無脳が、育つにつれて「ルール追加の手間あたりの賢くなった実感」がどんどん0に近づいて、ルールの作り手のモチベーション維持ができなくなることは、その頃から既に知られていたように思います。機械学習の分野では同様に「教師データ追加の手間あたりの精度の向上」が指数的に減衰する問題が知られていて、それへの対処として能動学習(Active Learning)などのアプローチが生まれているわけです。そこら辺の知見を取り入れて昔より良くなったのかな〜と思ったら20年前と変わらないルールベースのフレームワークだったりすると「ゅぃぼっと」かよ!とツッコみたくもなるというものです。

3章4章では90ページほど使って、実際に基本のルールベース人工無脳を実装しながら解説していきます。冒頭の「舞台設定とキャラクタ設定を作る」は僕にはない発想で目から鱗でした。後半ではルールベースの人工無脳にありがちな「直前の発言だけに反応すると話題が続かない」への対処として文脈をマルコフ近似しようとするアプローチは面白かったです。

夢みるプログラム 人工無脳・チャットボットで考察する会話と心のアルゴリズム