社会を“モデル”でみる―数理社会学への招待 レバレッジメモ

先日、情報処理学会の学会誌「情報処理」のために原稿を書いていたんだけども、妻に原稿をチェックしてもらっていたら「これを読むと面白いんじゃない?」といくつかの本を紹介してもらった。その中の一つが「社会を“モデル”でみる―数理社会学への招待

これは44個の「現象」をそれぞれ4ページくらいで数理モデルを使って説明するお話で、どこから読んでもいい気楽な感じの本なんだ。なかなか面白い。多分このエントリーのタイトルを見て興味を持つような人は「囚人のジレンマ」とか「スモールワールド」は聞いたことがあるのかなと思うけども、この本はそれも含めていろんなキーワードが紹介されている。素晴らしいのは各項目ごとに参考文献がちゃんと付いているので、詳しく知りたければ論文を読むなりなんなりと必要に応じて掘り進んでいけるところだ。いろいろな研究へのインデックスとして有用だ。

僕が自分の文章で主張した内容は「密なコミュニティ内のつながりだけではなく、コミュニティをまたぐ疎なつながりも持つことが、異なる分野の知識をつなげて面白いものを生み出すためには重要」というものだったのだが、本書の「なぜ広く浅いつながりのほうが転職に有利なのか」で説明されているグラノベッターの「弱い紐帯」理論は僕が漠然と考えていたものにかなりヒットすることがわかった。

本書に出てくるキーワードをざっくりピックアップすると:意思決定論、期待効用論、ゲーム理論、ネットワーク分析、社会的選択理論、ベッカーの依存症モデル、セントペテルブルクのパラドクス、アレの反例、プロスペクト理論アカロフの中古車市場モデル、逆淘汰、デュルケムの自殺論、信頼のゲーム・モデル、非協力ゲーム・モデル、囚人のジレンマ、アクセルロッドのしっぺ返し戦略、二者関係の微分方程式モデル、人間関係のインバランス、チープトーク・ゲーム、ベッカーの人的資本モデルによる結婚のメリットの説明、女性の交換の代数構造(近親相姦の禁止の文脈で)、イースタリンのこどもが増えない理由のモデル、シグノーの世代間扶養モデル、しきい値モデルによるブームの説明、オルソンの集合行為モデル、イアナコンの宗教モデル、なぜ民主主義的組織でもヒエラルキーができるのか、ボナチッチの中心性指標、スモールワールド・モデル、弱い紐帯共有地の悲劇、感受性の閾値モデル、公権力による解決の失敗、自己組織的集合選択のモデル、予言の自己成就モデル、セル・オートマトンモデル、サイモンの集団凝集性モデル、階層イメージのFKモデル、相対的剥奪論、センの富裕・効用・機能の関連、スペンスのシグナリングモデル(有名大が就職に強い理由)、ブードンの教育機会(の不平等)のモデル、自由主義パラドックス、投票のパラドックスアジェンダコントロール、ナッシュの交渉モデル、リチャードソンの軍拡競争モデル…ふー、キーワードだけ抜書きしようと思ったのだがそれだけでも書き切れないくらいあるな…